愛ある世界

 キスられた。
 学祭の「白雪姫」中って、少女マンガか! と思う暇なく、脊髄反射した手が顔を叩く直前に捕まる。
「永遠の愛と服従を誓います」
 ケッタイな台詞と薬指に指ぬき。サプライズ過ぎる感触に仰け反りたいけど、追い討ちで手の甲にもキスされて、気が逸れた隙にお姫様だっこ。
 王子役のアドリブ無視で脚本通りにセンターサスから全体照明へ替わると、楽器隊がスカ調「Heigh-Ho」を奏で、両袖から七人のこびとや草やらキノコやらが、ウチらを囲むように躍り入る。
『チュー! チュー! チュー! チュー!』
 客席じゃ悪ノリモード全開なコールで、ウチもそっちで冷やかしたいわ!
「姫、もう離しませんから」
 お姫様だっこのまま、もう一度キスしようとしてきたから、無い腹筋全力で突っぱねたら、バランス崩れて落ちかけたけど、C級難度でなんとか両足着地。
「キス、下手クソやなぁ!」
 決め台詞ってより捨て台詞だけど、ちゃんと演らなきゃ女優が廃るよ。盛り上がる客に応えにゃ!

声に出して読まれたいうのけブックス」三題噺「キノコ」「楽器」「指ぬき」 投稿作

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