なりそこないの鳥

 あの日、ヤツは墜ちていった。目の前で。この海に。
 最近柔らかくなってきた全身の鱗が、向かい風を捉える。
 もしヤツより遠くまで飛べたなら、オレはヤツを助けられたかもしれない。
 だから今、オレは飛ぶんだ。遠く。長く。強く。
 両脚で踏み切る。すっかり色の変わった空へ踏み切る。
 風にだけ集中して、あの頃のヤツより広く薄くなった腕をオレは振る。
 徐々に海が近づいてくるけど、とにかく風にだけ集中して振る。飛び続けるために振る。振る。振る。
 クソッ! ヤツが墜ちて帰らない今、飛べるのはオレしかいないってのに。
 だいぶ細く軽くなった脚に、波が触れた。
 オレは飛ぶんだ。絶対オレが飛ぶんだ!

超短編 500文字の心臓
第4回トーナメント一回戦第12試合を加筆修正

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