永遠の舞

 ぶくぶく沸くお湯に薄切りの人参や大根、白菜なんかが揺蕩う姿は、ちょっとした竜宮感。昆布出汁だし。しかし、大事なのはこの一枚のお肉である。潜らせる温度や速度のレクチャはあったけど、「食べたいように食べた方がウマい」と断言する店のスタンスが好ましくて、嬉しい。
「・・・しあわせだぁ」
 つい漏らしてしまった一言に、彼はにんまりと小ぶりのボトルを持ち上げる。
「こっちもどうぞ」
「じゃ、じゃあ」
 お猪口に淡い黄色の液体がとろとろ注がれる。日本酒は呑み慣れてないから警戒心を上げる。
「こんな銘柄なのに、できたばっかの酒蔵なんだよね」
 栓を閉めると、彼は現代アートっぽい地柄に墨文字が躍るラベルをこちらへ向けた。
「へぇ」
 どんな男も呑むと蘊蓄を語るが、Wikipediaを越えないので流すに限る。ただ、このラベルセンスはEDMとか好きそうだなぁと思う。
「あっ」
 口に含み、そして、鮮烈な閃き。たとえば、神との合一に捧げた液体が、一年ひととせ、生まれ呑まれゆくことで連なる歴史であり、酒蔵のはじまりは同時に断面で、平たく言えば、わたしは一口のお酒で感動できる人種ってことに、殊の外、心が踊る。

超短編 500文字の心臓
第145回競作「永遠の舞」参加作

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