化石村

「――都会の人から見ればそうなるんでしょうけどね。実際人口1万ちょっとしかいないわけだし」
 額に浮かぶ汗を拭きながら、教育委員会の目黒さんは自嘲気味に言った。日曜に案内してもらっているのが申し訳なくなる。
「ここが旧坑道の入り口です。その辺でタランボやコゴミがよく採れるから、間違って入らないよう柵をしています」
 斜面を俯角気味に掘った旧坑道。朽ちかけた丸太が天井を支え、側壁は地層が露出している。
「黒く見える筋はズリ。九州ではボタと呼ぶ質の悪い石炭でお金になりません」
 へぇ〜、と形だけの相づちを打つ。
「貝……」
 ホタテをもう一回り大きくしたような貝が、当然のように土の中から顔を出している。
「日本はどこもだけれど、ここも新第三紀までは海の底でね。崖やら川原にはそんなのがゴロゴロしてますよ。そもそも、石炭だって」
「また、水の底に戻れるんですね」
 無意識が口を滑らせた。失言。
「10年以上工事してるけど、ホントにダムなんてできるんですかね」
 歴史も文化も想い出も、ダムの底で石化するのだろう。
「よくある田舎の出来事でしょうけど僕らにすれば――」
 目黒さんの言葉に、ビビッドな景色が蒼然としてゆく。

超短編 500文字の心臓
第61回競作「化石村」参加作

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