「わたしの名前、鳥居みたいじゃない?」
 付き合って5年、お互い三十路越えようかって季節に、脈略なくマドカが言ったのでタケシは戸惑う。
「魔法少女みたいだなぁとは思ったけど」
 気の利いた切り返しが思い付かず、時間稼ぎにタケシはビーンボールを投げる。
「少女でも処女でもないし。っていうか、面白いの? それ」
 敬遠をセンタ前に跳ね返された投手の気持ちが、タケシはわかった気がした。
「それは知んないけど、いい名前だと思うよ。お寺の娘っぽいし」
 仕方なくタケシはストライクを取りにいく。ちなみに、マドカの兄は結婚し、男の子も作って実家の跡継ぎに収まっている。
「小学生の頃は太ってたから、名前でイジめられたんだよ」
 5年前の合コン以前を詳しく知らないから、タケシはそのエピソードを初めて聞いた。
「んと、マドちゃんの顔とかさ、見ようと思えば名前みたいじゃない」
 マドカの輪郭に手を沿わせながら、タケシは次の言葉を考える。
「見えちゃうのは仕方ないけど、俺はマドちゃんの顔も名前も大好きだよ」
 よくまぁヌケヌケと。と、タケシは脳内でセルフツッコミを入れるが、プロポーズはしないんだなぁとも。

超短編 500文字の心臓
第137回競作「円」投稿作

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