最終電車

 どうしましょ。どうしましょ。どうしましょ!
 まるで自分が日本語不自由で残念な人みたい。事実を並べれば単純な話。自慢じゃないけど、若かりし頃ならちょいちょいあった話ですよ。わたしにだって。バブルだったし。でも、二十代のわたしじゃなくて、今、この五十代のわたしにそんなことあると思う? 普通。ワインも食事もおいしかったけど、まさかそんなオプション。十年以上ぶりだよ!?
 あの子、いくつだっけ? 新卒研修終わってすぐウチの部配属だから二十代後半とか? ヤバいでしょ。それ。両親のが近いでしょ。世代が。ジェネレーションギャップ。
 体の線とか弛んじゃったけど、マンションのローンを繰り上げ返済しきって、服も靴も我慢せず買えて、行きつけのバーには呑み友達がいて、このまま死んでもつまんない人生じゃなかったよなぁ。なんて否定系で肯定できるけど、まさかこの期に及んで車中堂々とは!
 もしかして、これがラストチャンス? けど、酔った勢いでしょ? たぶん。混んでたし。でも、視線逸らさなかったし。でも、忘れてしまえば……キスのひとつでオバサン動揺させる二十代侮れん!
 ダメだ。家着いたら呑み直そ。寝れる気しないや。

超短編 500文字の心臓
第122回競作「最終電車」参加作

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