サンダル

 いつものように家を出ようとしたら、愛用するサンダルの片方だけが無くなっていた。
 起きてからジャーロの姿を見ていないから、奴がくわえていったか、それとも、寝てるあいだ開けっ放しにしていた玄関から、狸か狐でも入って持っていったのだろう。
 ふと思い立って僕は、しまい忘れたローカットのバッシュを足につっかけると、片方だけのサンダルを掴んで家の裏手に回った。
 朝から空は底抜けに青く、蝉の声は歩いて三十歩の裏山で喧しく木霊している。いい加減貼り替えなきゃならない瓦屋根のはるか上、太陽は微笑んでいた。
 田圃を挟んで二キロ離れたお隣さんにユルいとこだと思われてるけど、遅刻にだけはうるさい会社で、太陽があの位置ってことは、そうぼんやりもしてられない。
 放ったらかしてたガーデニング用の小さなスコップで雑草だらけの庭に穴を掘る。誤ってミミズを真っ二つにしてしまったけど、適当に深く掘った穴に僕はサンダルを放り込んだ。
 心ある人にはサンダルのお墓に見えるかもしれない、けれど僕は、芽が出て膨らんで、たわわにサンダルを実らせた木になることを期待して少しずつ土をかける。もちろん、実ったサンダルは片っぽだけ。そんなヘンテコな木―

超短編 500文字の心臓
第22回競作「サンダル」参加作

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