スイングバイ

 彼女は孤独だった。
 もしかしたら「孤高」の方が適切なのかもしれないが、ずっとそばで見てきた立場からすると「孤遠」と書きたい。つまり「孤独」は、物理的に一人だけ存在している状態を表す名詞ではなく、心理的に一人だけで存在を定義できる状態を表す名詞なのだ。
 たまたま、出席番号順の席で隣だったから。
 そんな理由で中学入学から20年近く、だいたい年に一度のペースで新しい男に引き合わされ、「わたしの親友」と紹介されてきた。
 まるで林檎のごとく男へ惹かれ落ちていく彼女に、周囲は「ビッチ」的なラベルを貼りつけたがる。が、男を替える度に女っぷりと女社会のヒエラルキーを上げていく彼女は、光速を越えんと加速に耐えているよう。
 彼女は常にいつも遠い。と、気づいたので、古い歌のように彼女から離れると決めた。
 誰も皆、手を振っては暫し別れなくてはならないのだ。

超短編 500文字の心臓
第136回競作「スイングバイ」投稿作
ぼくらが旅に出る理由 from LIFE by 小沢健二

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