消臭効果

 あの年、仕事もプライヴェートもなかなか身動きが取れず、伯父の手伝いに行く算段がついた頃には夏になっていた。
 新幹線の停車駅まで迎えに来てくれた伯父は
「どうよ? この新車の中古軽トラ」
 なんて軽口を叩いて笑った。
 伯父の町へ向かう道すがらは、あの頃報じられてた典型的な画ばかり探してしまい、現実には足場を組んだ建物が多い程度で、正直な話、多少のガッカリと罪悪感を抱いた。橋を越えて町に入るまでは。
「ヘドロくさい以外、綺麗なもんだろ」
 軽トラを降りて自分の家だった場所に立つと、伯父はタバコに火を点けながら、そう言った。煙が流れる先は僅かな木と雑草と、誰かのモノだったなにかや墓石の山、腐った汚泥。穏やかな水平線。
「どうせなんも無くなっちまったんだから、も一回大きいのが来て、どーんと、ヘドロとか放射能とか、いらんもの持ってかねぇかなぁ」
 伯父の軽口が本気すぎて、ヘドロくささなんて消え失せた。

超短編 500文字の心臓
第118回競作「消臭効果」参加作

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