天国の耳 -What's modern music?-

「だって、おかしいでしょ!」
「そう荒げなさんな。やっちまったもんは変わらないんだから」
 罪は確定している。しかし、男は仕事を続けなければならない。
「理由をもう一度説明してくれるかな?」
「だって、あの娘が聴こえるって言うから……」
「なにが聴こえるって?」
「わかんないかもしんないけど、スゴい才能なんだよ」
「ああ。だから、わかるように喋ってもらえるかな」
 気になる枝葉から目を逸らし、必要なことから聞かなければならない。勾留期限は有限だ。
「あの娘いっつも『わたしにはどんなノイズも静寂も、全部旋律に聴こえるの』とかホザいてた」
「だから、手近にあったボールペンを逆手で掴んで刺した?」
「血が出た」
「蝸牛にまで刺さってたらしいからな」
「わたしの曲を『美しい』って、笑ったから」
「侮辱されたと思った?」
「現代音楽に『美しい』だなんて!」
「音を聴くのはなぁ、聴覚野ってとこらしいぞ」
「わかってる。でも……あんな才能、この世にあっちゃいけないって……」
「だったら、なおさらだな。お嬢ちゃん。神様じゃないんだから」
 こんな動機さえ、被害者は旋律と聴いたか? 一瞬、考えて、男は密かに苦笑した。

超短編 500文字の心臓
第131回競作「天国の耳」未投稿作

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