遠くに行けない訳

「蛇女って、たしかに人口に膾炙してるカモだけど、今時そのジェンダー感はアウトだよ」
 学会賞取ったばかりの彼女が振るう正論は、沖縄酒場に流れる三線に乗っても返し難い。けれど、時代性に沿った新しさみたいなのは作家や芸術家が考える話で、酔ってる民俗学者の仕事じゃない。だいたい「人口に膾炙」なんて言うか? 普通。
「むしろ、それこそ今時、視野が狭すぎじゃね?」
 つい、で口が滑った時にはもちろん遅い。潔く外面だけ神妙にして、ヘリオスのゴーヤドライはウメぇ。とか、内へ籠る。
 蛇男を仮定して、そもそも蛇は男性器の象徴なんだから男on男でトゥーマッチ。つまり、蛇女はギャップ萌えなわけだ。じゃあと思いつくのは、動物名+男の始祖ねずみ男を蛇柄にする程度。浅はかだなぁ。
「って、そもそも居酒屋でこゆ構図になるのが、ステレオタイプでムカつくんだよね」
「怒りがメタ過ぎですよ」
 ついつい返して、懲りない自分に呆れつつも、俺はこうやって絡め取られるのが好きなんだろう。彼女から離れられないのは、だからだと考える。BEGINがオリオンビールを唄うほどのアウェイで、そんなこと口にしたらステレオタイプがとぐろ巻くなぁ。きっと。

超短編マッチ箱SFファン交流会出張編」平林賞受賞作

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