連れてゆく(1)

 東京と違って田舎だから、1時間に1本あるかないかの1両編成で、ディーゼルで、おまけにたいして人も乗ってなくて。でもね、エリー。高校の頃、僕は毎日これに乗って学校へ通ってたんだ。朝だけびっくりするほど混むんだよ。

 あのね、エリー。そこは菜の花畑で田んぼの向こうが玉ねぎ畑。春になると一面真っ黄色で綺麗なんだ。今度見せてあげるね。

 僕の家へ帰る前に祖父の家に寄りたいんだけど、エリー、いい? 祖父はもう僕を僕だってわからないんだけど、僕が子どもの頃からずっと、僕の奥さんになってくれる人の顔を見たがってて。だからせめて、遅くなっちゃったけど一番最初に、ね。

 そう、あの大きいのが駅。過疎と高齢化だけが取り柄の町には大きすぎるよね。きっと、誰かに見栄を張りたいだけなんだ・・・でも、うん。君とこの町にこれて良かった。ありがとね。エリー。愛してる。

超短編 500文字の心臓
第53回競作「連れてゆく」参加作

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