空虹桜>小沢健二(※1)へ15,000円注ぎ込んで「我ら、時」(パルコ Amazon)を買っちゃったからには語りましょう
というDISC2の前編です。
U・B >そんなわけで、DIS2の1トラック目は「歌は同じ」の朗読。
空虹桜>これはいいエッセイで、これを聴くためだけでも、ライヴ行く価値はあったんじゃないかなぁ。
U・B >やっぱり、オザケンが自分でこの街の大衆音楽の一部であることを誇りに思います(※2)って、
言い切ったことによりますわな。
空虹桜>結構出だしの話からどこに転がるんだろう?と、思ったんだけど、つまりこれは、90年代の小沢健二を好きだって言ってくれる
人に対する肯定というか赦しの話だし、自己肯定の話だよね。
U・B >唄われていることはだいたい同じ。張り裂けそうな哀しい気持ちとか、この世界に
いる喜びとか、恋人のこととか(※3)なんて、シレッと自分の曲を引用したり。
空虹桜>さらに深読みして、ここで言う「大衆」が「体臭」と誤変換されることを想定しているような気もするん
だよね。そこまでひっくるめて、大衆音楽の一部である誇りなんじゃないかなぁ。
U・B >ああ。スタンダードというより、もう毛穴から発散されるような芯に埋まってるよね?っていう。
空虹桜>で、続くのがトラック2、まさかの「カローラIIにのって」
U・B >歌詞カードには「カローラIIにのって(アラベスク)」って、こそっと書いてますがここでは通常の曲順にあわせての表記です。そ
れはともかく、なんかギターのカッティングがカッコ良くはじまって、遅れて聞こえる歓声。
空虹桜>ホントにまさかまさかの。
U・B >真城さん(※4)が低いキィでハモってたりするところもなんか予想外だし。
空虹桜>ぶっちゃけ、この曲は大衆音楽じゃねぇーよ!と、ツッコみたくなるけど、翻って冷静に考えれば、カローラIIな
んてバリバリの大衆車ですからね。
U・B >そう。そこを考えると、大衆音楽家が大衆車のTVCMソングを唄ってたって、スゴい時代性の塊みた
いな曲なんッスよね。
空虹桜>ねぇ。そして、ホントに大衆音楽然とした「痛快ウキウキ通り」
U・B >「ウキウキ」なんて単語を曲名に冠することが許された90年代。
空虹桜>むしろ、今この時代に「ウキウキ」ってきちんと冠した曲を唄えないミュージシャンって、なんなの?って気もするけどね。だって、
今唄えばだいぶアイロニカルだよ。
U・B >そんな頭回るわけないじゃないですか。商業音楽が。しかも「痛快」とまで言ってるんですよ。
空虹桜>ねぇ。そういえばさ、「痛快食堂」って北海道だっけ?(※5)
U・B >なんの話ですか?
空虹桜>ホントに、歌詞が世俗的で刹那的というか、一時代的な曲なんだけど、サラッと立ち止まり 粋をする 暖かな
血が流れてく(※6)とか入るじゃない。このフレーズの飛躍こそが、どんなに瞬間最大風速で売れても、大衆音楽
として生き残れるかどうかの差に掛かってくるんじゃないかなぁ。
U・B >そして、トラック4に大好きなファンが多い「天気読み」
空虹桜>何回聴いても君にいっつも電話をかけて眠りたいよ 晴れた朝になって 君が笑っても
いいって、地道な愛情表現がたまらないんだけど、このアレンヂで聴くと一神教的な神様感が、もうちょっと土着的というか、
アボリジニとかネイティヴ・アメリカンとかの神様っぽく聴こえて、音楽ってズルい
なぁっていう。
U・B >ズルい?
空虹桜>うん。ある程度文脈でコントロールできるとはいえ、結局その文脈をどのように読むかは読者に委ねら
れるのね。文章表現は。その意味で、作者はドロップしたあとの作品ってアウト・オブ・コントロールなのね。でも、音楽
は楽譜を書くだけでは完結しなくて、そこに表現方法を追記して、さらに自分たちで再生する。つまり、受容のされ方ま
でを含めて演出ができる。もしくは、再生方法を指定できる。
U・B >とはいえ、それは単なるメディア特性の差では?それに、指定できるのは再生方法だけで、方法通りに再生され
ても再現性は異なるわけだし。
空虹桜>そうなんだけど、こうやって改めて突きつけられるとね。
U・B >勝手な空虹さんの感慨はともかく、トラック5で「戦場のボーイズ・ライフ」が来るわけですよ。
空虹桜>またまたまさか感のね。
U・B >この愛はメッセージ!祈り!光! 続きをもっと聞かして!(※7)ですからね。
空虹桜>前半をザックリカットしてるのは、「ロザリオ」なんて具体的な単語が出てきてるからだと思うけど、このアレンヂは原曲の何倍も
素晴らしくて、開放感というか、光感が強いんだよね。だから、暗闇の中挑戦は続く 勝つと信じたいだ
から 何度も君の名前を呼ぶ 本当の心捧げて呼ぶ この愛はメッセージ 僕に
とって祈り 僕にとって射す光(※8)って切実さが心に迫る。
U・B >全体的に過去にあった小沢健二の肯定というか、過去の小沢健二からの展開みたいなアレン
ヂが多い前編ですが。
空虹桜>「歌は同じ」の朗読が象徴的だからね。でも、逆に言うとさ、小沢健二でもようやくこれだけの時間を掛けて、ここまで自
己肯定できるようになったって見方もできるんだよね。
U・B >時代の呪縛の大きさ?
空虹桜>むしろ、若さ故の過ちを肯定するって、これぐらいの覚悟と時間がいるっていう。
U・B >ああ。なるほど。
空虹桜>その上で、ちゃんと過去の自分の延長線上に今の自分がいますって描けるのは、力
の見せようだろうし、ファンへの「裏切らない」宣言でもあって、見事なところかなぁと。もちろん、これ
はすべて好意的な解釈なんだけど。(※9)
※1 小沢健二:ある意味リアルな吟遊詩人。嫁はカメラマンだったりするので、いっそ旅番組でもやればいいのに。
※2 拡大部は朗読より引用。
※3 拡大部は歌詞より引用。
※4 真城さん:HICKSVILLEのヴォーカルにして、コーラスの女王真城めぐみのこと。
※5 痛快食堂:すすきのにある居酒屋。
※6 拡大部は歌詞より引用。
※7 拡大部は歌詞より引用。
※8 拡大部は歌詞より引用。
※9 空虹桜38行。U・B24行で、俺の勝ち。空虹の行数はカウント漏れしてるかもしれないけれど、誤差の範囲ということで。