U・B >アナログフィッシュ(※1)のメジャ1stミニアルバム「Hello Hello Hello」を話します。CCCD版じゃなくて
CDDA版です(※2)。でもって、きっとたぶんもう既に廃盤です。
空虹桜>廃盤って、響きがすでにもう切ないよね。
U・B >形あるモノはいつか失われるように、廃盤ってのは仕方ないと思うんですよ。それがサイクルってもんだし。たださ、俺にとって
このアルバムは唯一サイン入りだから、ちょっとだけ特別なんですよ。
空虹桜>サイン入りって、値段高くなったりはしないんだよ。あくまでもコレクターズアイテム。
U・B >いらんから。そんな情報。ともかく、俺にとっては、あの年のRSRとともに永遠に記憶に残る一枚なわけです。そして、表題曲
にもなってる、名曲1曲目「Hello」
空虹桜>実質なにも言ってないよね?この歌詞。
U・B >ええ。実質4行ですよ。それを入れ替え差し替え4回ぐらい繰り返したらなんと4:04になるんですよ!
空虹桜>なにげにこの手のが多い?
U・B >初期は。ただ、この曲がシングルというか表題曲になったり、未だにアナログのアンセム的に唄われるのは、やっぱり、下岡
晃(※3)という人のセカイ系っぽさもあるけど、今頃になって下岡の書く曲をプロテストソング、プロテストソング言ってる馬
鹿がいっぱいいて吐き気がすんだけど、もうこの曲の時点で相当なプロテストソングだった
りするわけじゃないですか。
空虹桜>僕の内外の話だよね。
U・B >そう。内外を相対化していく内に、ハローと声を掛けて新しい世界を迎えるわけじゃん。
空虹桜>なんか格好つけたこと言ってる。
U・B >そこで茶々入れてきますか。(※4)ともかくさ、この曲カラオケで唄ってもなんも面白くなくて、浴びることによって意
味が出てくる曲なんだと、一昨年だかカラオケで唄ってみて思いました。わりと希有だと思うんだよね。そんなの。
空虹桜>さいですか。じゃあ次、2曲目は「ラブホ」歌いあげ系。
U・B >やっぱり健太郎(※5)は吠えてる方がいいよね。っていう。この曲は珍しく、健太郎作詞で下岡作曲だったりするんだけど、や
っぱりこの曲の凄いところは、この歌詞で「ラブホ」と曲名付けたことではないかと。
空虹桜>全然セクシャルな要素無いもんね。強いて言うと最初の腕に押し付けた タバコの火種で 僕は変わ
れると信じていた コーヒー飲んだし 呼吸も荒いし 明日が怖いし 眠れやしな
い(※6)だけど、深読みすれば読み取れなくもないぐらい。
U・B >でもきっと、これ、実際ラブホで泊まりの時に思いついちゃったんだよ。
空虹桜>だよね。隣で彼女が寝息立ててるのに、一人眠れなくて、違う意味で悶々とするっていう。若いねぇ。
U・B >若いよねぇ。でも、だからこそこの曲はいいわけですよ。グッと来るわけですよ。だって明日には そう 生まれ変
わって 笑ってやるさ 何度そうやって 誓ったんだろう すばらしいじゃないか こ
れがロマンチックに映るのは 正しい心に あこがれている(※7)ですからね。自分の正しく無さ
に自覚的だからこそ、こんなこと考えちゃう。
空虹桜>こゆところで苦しんでる若人を見ると、キャッキャ言いたくなる歳頃になっちゃったんだなぁ・・・
U・B >未だに俺はそんなんですけどね。
空虹桜>ガキは黙ってなさい。さて、3曲目は「チンパンジー」
U・B >これも「ラブホ」の続きみたいで若いんだけど、病んでる感がもうちょっと前に出てきていて、でも、病んでるっぽさってのは、自
覚症状のせいの病んでるさだっていう。
空虹桜>またなんだかへんてこりんな日本語を。
U・B >へんてこりんって・・・キモは僕は君のための花になる。 それで僕は君とチリになる。(※8)なん
だけど、そこまで自己卑下しなくてもいいじゃんっていう。
空虹桜>でも、この手のモードの時は自分を追い込まなきゃやってられないっていうね。で、4曲目「山手ライ
ナー」で、ちょっとパンクっぽいアプローチ。
U・B >これをパンクって言うのは、空虹さんの音楽感がよくわかるですけど、それはともかく、これもさ、きっと山手線乗ってる間に思
いついたというか、実際やることなくて、1日中、山手線乗ってたりしたんじゃないかと思うんだよね。
空虹桜>知り合いで、本読むのに定期区間をずっと往復するって言ってた女の子いるよ。
U・B >馬鹿ですか?
空虹桜>夏涼しくて冬暖かくて、明るくて、お金かかんないから丁度いいんだって。出来ちゃった婚したけど。
U・B >いるか?そのオチ。
空虹桜>そんなアレゲな感じの娘でも、可愛ければアッサリ子ども作って仕事辞めちゃうよっていう、まぁ、リアルなお話です。
U・B >だいぶ本題からずれてるけど、この3曲続けて健太郎曲で、健太郎が若い時にありがちな無闇な焦燥感
に囚われていたんだろうなぁっていうのが、健太郎はそのまま吐き出すタイプの作詞家だからよくわかる。
空虹桜>最後5曲目が「ナイトライダー」で、こっちは捻くれた焦燥感の現れ方をしている。
U・B >下岡作詞の真骨頂みたいなね。で、統一して繰り広げられるのは、予備知識込みの理解で話すけど、田舎から出てきた少年
たちが都会にぶち当たった時、今まで自分たちの把握していた世界とは全然違くて、手が届く範囲とか、目に見える範囲イコ
ール世界だったのが、なんだかどこまでも永遠に地平線とか水平線とかみたく、果てしな
いモノに見えてしまったから、どうしていいかわかんなくなったってのを忠実に唄ってると聞こえるんですよ。
空虹桜>そのボンヤリとした感覚に、共感を覚えるかどうかは、このバンドのファンになれるかどうかのボーダ
な気はする。
U・B >そうッスね。もちろん、その都会と田舎の関係の中で世界を見ていたから、実はプロテスト的なというか、斜に構えた歌
詞が出てきてたりもするんだけど、この曲で言うと夜道を照らす街灯の間隔が だんだん離
れていく気がするんだ 夜道を照らす街灯の間隔が だんだん離れていく様な気が
するんだけど きっと気のせいのはずだよ(※9)ってあたりが、端に行けば行くほど、そこは全然
端じゃないって感じで、どんどん行き止まりなんか無くて世界だけが勝手に広がってく
っていう。
空虹桜>なんとなくしか言いたいことわかんないけど、本人たち無自覚だとしても視座が地方と都市の関係の中で立ち現れてるってい
うのは、わからないじゃないかな。結局、階層間の移動でなくても、地域間の移動が社会移動たり得るっ
てことなんだよね。
U・B >すみません。唐突にテクニカルターム出さないでください。
空虹桜>ごめんごめん。つまり、ベタな言い方をすると、「離れてみて、アナタの大切さがわかったわ」的なのね。つまり、既存の関
係性を変化させることで、既存の関係性を客観視できるっていう。簡略化すると、変わらな
きゃ見えないことってあるよね。っていう。
U・B >最初から簡略化して話してください。で、今の言に乗っかるなら、そゆのってやっぱり地方出身者が積極的にやるべきことで、
実はコテコテの江戸っ子にシティポップがウマいこと作れないのは同じ理由なんじゃ
ないかと思っております。(※10)
空虹桜>なんかその話広げると面白そうだけれど、めんどくさいから聞かなかったことにします。(※11)
※1 アナログフィッシュ:1999年に結成の下北系ギターロックバンド。長野県下伊那郡喬木村出身の下岡晃(Gt&Vo)と佐々木健太郎(Ba&Vo)に斉藤州一郎(Dr)を加えた3ピースバンド。
※2 CCCD:恥ずかしげもなく音楽業界が作ったただの銀色円盤。CDDA:音楽が聴ける銀色円盤。一般的なCD。
※3 下岡晃:※1のとおり、アナログフィッシュのギター&ヴォーカル。トレードマークはニット帽。
※4 茶々:赤ずきんとか、豊臣秀吉の側室 a.k.a 淀殿ではない。
※5 健太郎:※1のとおり、アナログフィッシュのベース&ヴォーカル。太ったり痩せたりする人。
※6 拡大部は歌詞より引用。
※7 拡大部は歌詞より引用。
※8 拡大部は歌詞より引用。
※9 拡大部は歌詞より引用。
※10 山下達郎とか松任谷夫妻、大貫妙子ぐらいじゃないかな?あとはコーネリアスか。でも、今のコーネリアスはシティポップの文脈では無いわなぁ。「東京」が付く名曲は非東京人が作っている論も含めて、その内まとめてクロスフェーダで話す。
※11 空虹29行。U・B44行で、無論、俺の負け。次もミニアルバムのお話です。