その43「shinsekai」

本文中のリンク先には、アフィリエイトを含むことがあります。ほぼお金になってないですけど。

U・B> なんとなく気配を感じていたとは言え、実際に空中分解をしていたミドリ(※1)のラストアルバム「shinsekai」(Amazon / Apple Music)です。タイトルがすでに意味深です。

空虹桜> 無駄にローマ字のタイトルって、アンニュイだよね。

U・B> 今、空虹さん、「アンニュイ」言いたいだけでしたよね?

空虹桜> ツッコミ早いな・・・1曲目は「鳩」くるっぽー

U・B> そういう頭悪いこと言うの楽しいですよね。まったく。もちろん、ここでは「鳩が飛んだわ 鞄を持って 昨日のあなたにレッツゴーレッツゴー」(※2)ではじまるところからもわかるように、ポジティヴに見せかけといて、後ろ向きな歌詞。

空虹桜> しかも、メロディはなんだか穏やか。

U・B> 穏やかすぎて、なんか企んでるだろ?お前みたいな疑いすら抱いてしまう。しかも、「ピカピカに光る新世界 欲にまみれた欲にまみれた 手足を乗せるは 南海本線 どこへ行こう みさき公園」(※3)ですからね。歌詞の構成として、「ピカピカに光る新世界」の対象として「南海本線」と「みさき公園」が置かれてるわけじゃないですか。

空虹桜> 「欲にまみれた」ではなく。

U・B> ですよ。「みさき公園」知らないし、南海本線って数える程度にしか乗ったことないけど、刷り込み的に南海ホークスですからね(※4

空虹桜> 引き合いに出すの、それかい。

U・B> 個人的に、ドラムの音が部屋鳴りしてる感じなのす気なんですけど、引用してない歌詞も含めて、全体的に不穏さを隠そうとしてない感じが、このアルバム怖いなぁと思った記憶です。

空虹桜> けど、その不穏さを、いきなり振りきってしまう2曲目が「凡庸 VS 茫洋」で「凡庸、凡庸、茫洋です。」(※5

U・B> 「好きよ好きやよ好きやよ好きよ好きよ好きやよ好きやよ好きよ 好きよ好きやよ好きやよ好きよあなたの事が大好きよ」(※6)ではなく、そっちか。

空虹桜> そりゃ、所詮アタシは凡庸な人間ですからね。

U・B> 自分で言うところが厭らしい。しかし、「好き」は連呼すればするほど狂気が発揮される良い単語ですよね。

空虹桜> なんだそれ。あと、間に埋もれてるけど「枯渇した、脳を構築していく。」(※7)という、不意に紛れ込む科学的なフレーズが面白いと思ってます。

U・B> 俺は、ずっとループだったのが、終盤の展開で完全フリージャズ化してるあたり、好きなんですけどね。

空虹桜> 3曲目「さよなら、パーフェクトワールド。」イントロからデス声でなにかと思ったら、普通に唄ったりするので、忙しない曲。

U・B> その通りではあるんですけど、このアップダウンは歌詞にも出てくるとおり、躁鬱的ではあります。

空虹桜> 2:42の曲にしては、要素詰め込みだからかもしれないけれど、長いというか。

U・B> 言わんとしてること、わからいではないです。一方次の「メカ」になると、長さは吹っ切れると思うんです。

空虹桜> 吹っ切れるというか、なにも言ってないからね。

U・B> 「メカ喰う つらいや」(※8)ですからね。

空虹桜> そりゃ、辛いよね。

U・B> メカ食って辛くないのはガッちゃんだけですからね。

空虹桜> えーと・・・アラレちゃんだ。

U・B> 正解。こういう頭の悪い曲をもっとたくさんやってたら、バンドの違う光景が見れたんじゃないかな。って気もするんですよ。もちろん、あのヒリヒリが良かった人ではあるので、一概には言わないですけど。ただ、このアルバムの中で一番好きなのは「メカ」です。

空虹桜> 拳を突き上げたい曲ではあるもんね。5曲目が「スピードビート」で、曲調は一転してんだけど、なにより凄いのは「スピードビート」ってタイトルなのに歌詞が「うごけない、うごけないの、うごけない、うごけないの うごけない、うごけない。」(※9

U・B> ここまでが疲れる曲続いたから、ひと休みではあるんだけど他にも「サハラ砂漠を泳ぐような、悲しみに揺らいでた」(※10)とか、スピードある感じではない。

空虹桜> もちろん、スピードはあくまでも速度を表す名詞でしかないから、速い必要は無いんだけど、なんだろね?この違和感。

U・B> 思い込みってヤツですよね。でも、この曲って、やってるバンドも曲中の主人公もストレス掛かりまくってるから、心拍数とかはかなりのスピードだと思いますよ。

空虹桜> なんかウマいこと言ったから次。6曲目は「春メロ」で、ハジメタル(※11)がメインヴォーカル。

U・B> 当時も、今回ように聞き返しても、「まさか感」が凄い。

空虹桜> 曲自体は、可愛らしいというかなんだけどね。

U・B> 「言葉はちるよ 春の終わりに なんて儚いのかな」(※12)ですからね。ある意味で暗示的でもあるのだけど、むしろ、ハジメタルをメインで唄わせるぐらいのことをやらないと、バンドとして行き詰まりが解消されないっていう解釈。たぶん、当時も今も。

空虹桜> 作詞のクレジットもハジメタルと後藤まりこ(※13)の共作になっている。

U・B> しかも、ハジメタルが前っていうね。逆説的には、後藤さんがコーラスとはいえ、人の歌詞を唄ったの?って驚きもあるんだけど、いずれにせよ行き詰まってることしか見え出せない状況ではある。

空虹桜> そう聴いちゃったら、そうしか張こえないよね。7曲目は「リズム」で、さっきの「スピードビート」に比べれば、こっちの曲はリズミカルだからか、アタシは好き。

U・B> 「透明なリズムで 透明なリズムで」(※14)ってサビがヒップですもんね。

空虹桜> その歌詞でいくと、もともとフィジカルな名詞じゃないのに、「リズム」って色が付いてる感覚がたしかにあって、なんで「透明なリズム」という語に、ちょっとした引っかかりと良さを感じるんだろうね?ってのは、とくにタイトル決める時に考える要素のひとつ。

U・B> なんとなく、わかる。歌詞全体で読むと、イマジナリーフレンドの話(※15)じゃないですか。

空虹桜> 素直に読むとね。

U・B> でも、やっぱりこれは色恋の話しだとは思っていて、そこは俺の妄想を後藤さんに押しつけてるだけだという自覚はあるんだけど、元彼の存在を「透明」というか、いない人としようとしているように思えていて、さらに言うと、君とわたしの交際は夢の中の出来事であって、なにも無かったんだよって言っているように聞こえるし、そう美化しようとしているように聞こえる。

空虹桜> おお。妄想してるなぁ。

U・B> ええ。でさ、この解釈を踏まえると、今まで衝動で恋愛していた後藤まりこが、衝動じゃない恋愛をしたんだ!って、スゲェ上から目線の妄想が広がるわけですよ。

空虹桜> その反動で8曲目「あたし、ギターになっちゃった!!!!!」

U・B> なっちゃった!!!!!


空虹桜> なっちゃった!!!!!

U・B> その結果として、ギターソロが唸りを上げるのが良いんですけど、「抱きしめられたく」ってギターになるという発想時点で、バンドマンと付き合っちゃいけないっていう根本的な生き方誤りっていう。


空虹桜> あんだけライヴ行ってる人験が良く言うな。

U・B> バンドマンなんてロクな人間じゃない。って、皆言ってますよ!


空虹桜> それはともかく、全体的には楽しそうな曲になっている。

U・B> やってる方も見てる方も楽しい曲ですよね。


空虹桜> それは間違いない。

U・B> ただまぁ、抱きしめられるより抱きしめたい。マジで。ですけども。


空虹桜> マジでなに言ってるかわからん。キモい。9曲目が「鉄塔の上の2人」は、しっかり狂気。

U・B> ああ。そうですね。タイトルがすでに狂気ではあるけど、出だしから「あたしはそっと二階の窓から、あなた目掛け床にダイブ」(※16)で、もう最高ですよね。


空虹桜> 歌詞的には、「自殺的に愛したい アレがなくって困りだす」(※17)とか、わかりやすい飛躍と狂い方をしていて、愛おしい感じさえする。ここでアレがないのは妊娠したってよりは、単純に生理不順なんだと思うんだよね。思い詰めすぎてストレスになってるっていう。

U・B> それはそれで。とはいえまぁたしかに「あたしは、そう、依存の病気です。」(※18)とも唄ってますしね。


空虹桜> そこもさ、「躁依存の病気」に聞こえるんだよね。「躁鬱」の「躁」

U・B> ああ。病みが深い。


空虹桜> 深ければ深いほど他人事では無い感が強まるし、自覚症状も明確になるっていう。まぁ、ある種の病んでいたい子向けの楽曲とも言えるんだけど。

U・B> そういう子って、大昔からある一定数安定して存在しますよね。


空虹桜> うん。それがある種の耽美であるって伝統もあるんだけど、粗油のも引っくるめて、病んでるんだから仕方ないかなっていう。そして、最後の曲が「どんぞこ」

U・B> やっぱり、この曲がこのアルバムの中でベストだし、ミドリというバンドの行き着く先として、こうなるよね。って言うのの具現化みたいな曲だと思うんです。


空虹桜> 「どんぞこ、どんぞこや。どんぞこ、どんぞこや。」(※19)を連呼して、フリースタイルジャズみたいなメロディが突き抜ける。

U・B> 歌詞カードには出てないけど「ボクもみんなもアカンかもしれん」(※20)唄ってますしね。


空虹桜> ホントはさ、「どん底まで落ちたら浮かんで来る」みたいな話があるわけじゃん。

U・B> ありますね。そゆの大好きですけど、でも、こうやって空中分解してしまうバンドも好きなんですよ。


空虹桜> ある種の「滅びの美学」というか。

U・B> いや、違くて、このバンド形態を永遠に続けるのは無理なんですよ。どっちかっていうと「刹那の美学」というか、「青春の帰結」というか。


空虹桜> へぇ。

U・B> 気のない返事ですけど、「いつまでも子どもではいられない」ってわけではなくて、いつまでもば一緒にいられないんですよ。


空虹桜> とはいえとはいえ。じゃあ、まとめを。

U・B> 今でもミドリのライヴをもう一度見れるなら見たいけど、でも、もう我々は若くない。ただ、この頃の延長線から1nmも離れてないのが、悔しいような嬉しいようなみっともないような、でも、好きなんですよ。ええ。


※1^ ミドリ:ハードコア・パンクロックで「大阪のいびつなJUDY AND MARY」2010年解散。メンバの変遷が激しすぎるのだけど、ドラム小銭喜剛、ギター・ヴォーカル後藤まりこは不変。
※2^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※3^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※4^ 南海ホークス:1938年から1988年までの50年にわたり、基本的には南海を親会社とし大阪府の大阪スタヂアムを本拠地として活動していた野球チーム。
※5^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※6^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※7^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※8^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※9^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※10^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※11^ ハジメタル:「ミドリ」の鍵盤奏者。ミドリ解散後、GLAYのサポートや楽曲提供を行っている。
※12^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※13^ 後藤まりこ:※1のとおり、日本のシンガソングライタ後藤まりこのこと。
※14^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※15^ イマジナリーフレンド:心理学、精神医学における現象名の1つ。Wikipediaによると「想像上の仲間」や「空想の遊び友達」などと訳されることは多いが定訳はないらしいお。
※16^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※17^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※18^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※19^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※20^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。

空虹桜HP アノマロカリス > U・Bと空虹桜のカオシデ石二 > その43「shinsekai」
雑感・レヴュ集 メタセコイア > 音楽 > アルバムレヴュ > ミドリ/後藤まりこ > その43「shinsekai」
空虹桜HP アノマロカリスBANNER
(C) Copyright Unaru Bacteria & SORANIJI Sakura,2023
e-mail bacteria@gennari.net