巻頭言
これとこれにお金を払おうと考えた時、じゃあ、おいくらにしましょうかとか。
一番わかりやすい目安がiTunesで、1曲150円とか200円。
それで4分程度楽しめて、それを数回かあるいは数十回聞き直す。
お金を払うってことはそういうことだと思います。
逆に言えば、そういうところで勝負できる物語たり得るか?ということ。
権威とか名誉とかもたぶん大事なんだろうけど、それって与えられるモノでしょ?
セルアウトだけがすべてじゃないけど、戦わないことの言い訳にセルアウト云々を持ち出すのは言い訳でしかない。
アタシの感想に、コメントに権威は無い。アタシは偉くない。お金は代替手段でしかない。
しかし、それは超短編界隈の空虹にとっての価値観でしかない。
普段の日常生活における空虹の価値観は、150円で1曲で、500円ぐらいの文庫本を買い、800円ぐらいでラーメンを食べたり、1,000円ちょっとのワインを買ってきて部屋で呑み、2,500円とか3,000円出してCDを1枚買い、サッカーを見、4,000円とか出してライヴに行く。
2つの価値観は同時にアタシの中に存在し、どちらも大事で、状況に応じて優先される。
そんなことを考えながら、値付けさせていただきました。ご参加くださりありがとうございます。
初回でこのクオリティなら、次をやっても良いかなぁと。
なお、掲載は受信順です。
ロールケーキ(自由部門) 作者:氷砂糖
コメント
いかにもアタシが好きそうだけれど、好きそうなモノと好きなモノは違います。
初読時に、以前ノベルなびのN-1グランプリで書いた「ホットケーキ・ミックス」を思い出してしまったので、どうしてもそちらとの比較になってしまったのだけれど、どちらにせよ突破力が足りない。
たぶん、中に入れる具体的なガジェットが味の決め手ではないと思うんだよなぁ。
> 夢とか希望とか愛とかの苦めの実
って件は好き。
dogs(不狼児リミックス)
作品
足踏みをする。足踏みをする。囚人は寒い。
一列に並んで、まだ進んではいけない。
九官鳥の看守長が禿の刑務所長のかつらの上から号令をかける。―Go down, dogs!
丸坊主の囚人を収めた四角坊主の刑務所には抜け穴の掘れない四角四面の庭がある。
凍えた声が号令を復唱しながら円を描く。進んでも戻ってくるので足踏みと変わらない。
犬どもよ。犬を呼吸して犬になれ。もっと。
コメント
金200円
一と四と九がいると、他の数字がいないことが気になって仕方がない。
意識的に数字を置いているように見える作品だから、余計に。
九が丸になっていたり、主から三を、穴から六を見出すことは簡単だけれど、それがこの物語の仕掛けとは思えない。
ただ、最後の一行が抜群にいい。もしかしたら、これだけで充分だったかもしれないぐらいに良い。
古川日出男の「ベルカ、吠えないのか?」に、あってもおかしくないような、このフレーズにはお金を払う価値があります。
秋の恋(自由部門) 作者:不狼児
コメント
値付けをしようかどうしようか、最後までずっと悩んでいたのだけれど、結局止めました。
なんでだろ?間違いなく好きなのだけれど、夢オチかぁ。って、残念感が強い。
物語がフィクションであるならば、本質的には夢オチだろうがなんだろうが、同じ程度に「なんでもあり」なので、目くじらを立てる必然性はないのだけれど、この物語の中で、僕や彼女にとって「現実」であって欲しくて、「夢」に括られてしまったこの物語では、
> 「ホラ、モウイチド、ナンドデモ、アエルカラ」
ってワンフレーズが、どうしようもなく虚しく聞こえてしまうのだ。
彼女にとってその一言は「夢」の隠喩なのかもしれないけれど、せっかく爆発するというのにやるせないし、物語的にも効果的ではない。
dogs(はやみかつとしリミックス)
作品
ペルシャ絨毯でひとっ飛びすればそこは沙漠。遊んで暮らせるならねと思った行く末がこれではね、と顔を見合わせて少し笑った。
それでも、生きて行くしかない。青空がこんなに素敵な今日なら、なんにも怖くはない、気がする。ほんとうは、なつかしい人々がぼくたちのことをもう想い出さないんじゃないかって、怯えているけれど。
つむじ風がふいに起こる。
何もかもが、とてもなつかしくなる。そして、ほんとうはどんなに大きな声で叫んでも世界にはふたりきりなのだと、改めて思い知るーー吠えるくせにどこまでもついてくるおかしな犬を除いては。
ーーD☆O☆G☆S (refuge is painless)
コメント
金400円。
元ネタが、昨日と今日がくっついていく世界の天気読みで、地上の夜、暗い闇から手を伸ばせば、ヒマワリは揺れるままカウボーイが失踪し、ローラースケート・パークに天使たちの降りてくるようなシーンが待っている的なモノだから、なんだかそんな感じのこの話には好感。
多少、漢字の開き具合や終わり方が好みではないけれど、素直なアレンヂに和むので、トータルではプラス。
ダッシュ記号が何度も文字化けしたようで、お手数をおかけしました。
コンチェルト・グロッソ(自由部門) 作者:はやみかつとし
作品
(ーーアルフレート・シュニトケとエウミール・デオダートに)
スターダム、スターダム、スターダム。
華やかなスポットライトを浴びるソリストたちの背後に控える、弦楽合奏の一団。それがぼく。それがぼくら。
でもぼくらは、観客は、知っている。全体合奏が主旋律を奏でたときの、その厚みが、その多彩な声の響き合いが、それが歌なのだ。いかにソリストたちが朗々と歌おうとも、それは歌ではない、いや、作曲家が丹精込めた一枚のメロディ譜にすらそれは宿っていない。
それは、ここにある。ここに、まさに今この瞬間にだけ、立ち現れるのだ。
息を呑み、そして解き放て。
アインザッツに軋む弓と弦との咆哮が、二度と繰り返されることのない歌を奏でる。高らかに。
コメント
金1,500円。
いろんなところで何度も言っていたかと思うけど、アタシは音楽的教養は皆無と言って良い。
中学の時の音楽の成績は3とかそれぐらいだったし、高校の時は選択教科で取っていない。音痴の部類だし、弾ける楽器はリコーダとピアニカぐらいだ。
クラシックのスタンダードも片手で数える程度にしか把握していないし、好きだ好きだと言ってるヒップホップだって、LB界隈から離れると途端に弱くなる。
なのでもちろん、アルフレート・シュニトケにエウミール・デオダート、アインザッツさえググった。
という話は、単に音楽の話だから評価をしているというわけではないという言い訳。
超短編は文字数がすくないから、必然的に瞬間とかスナップショット的な表現を得意としている。
この作品は、まさしく音楽が、歌が生まれる瞬間が描かれた物語で、ドープな超短編界隈ではあまり評価されないのだけれど、アタシはこういう物語が好きです。
500文字しかないのだから、カタルシスまで描けないのであれば、書く必要は無い。
きちんと加速をつけた道のりに物語を乗せさえすれば、慣性力は読者を目的地へ必ず連れて行く。
アタシには、聴こえました。