ライム・オア・リーズン

「デコポンを最初にデコポンって呼んだ人バリにセンス悪いよね」
「って、デコポン馬鹿にするアキの結婚したい人って」
「ダイスケ!」
「そういえば、来週マルミでバーゲンだって」
「すんごいそれ気になるけど、過去を誤魔化さないの。次、レモンといえば誰?」
 あの教室で机を囲んだわたしたち4人は、毎日とびきり無駄な時間を昼休みに詰め込んでいた。時計の針が戻らないことを感じながら。
「レモン? なんか読めるんですけど、あ〜ん……」
「わたしはシン」
「え〜、シンならレモンってより……酢ダコさん?」
「酸っぱいってより酸っかい的なね。うん」
「なら、アタシはせっちゃん」
「キタキタ。この人はまたプチ惚気だもん」
 授業中に辞書を眺めていて「芳紀」なる単語を見つけたことがある。きっとわたしには、あの3年間が「芳紀」に相応しい。
「――で、結局レモンの意味は?」
「普通ならファーストキスか初Hの相手か」
「おしい。初恋の人でした〜」
「うわっ! シンとか無理。あり得ないから」
「リエ声大きい。シンとか男子こっち見てるってば」
 記憶の中であの頃は爽やかに薫るから、今のわたしは「芳紀」なる単語を創造した古人に心から共感できる。
「果物シリーズ最後はストロベリー」
「ストロベリーよりなにより、サヤカの言い方がいとエロし」
「ウチらん中でサヤカだけは絶対処女じゃないよね。猫かぶりだし」
「だよねだよね。ハロー、マンゴー。カモン、チェリー!」
「相手誰だろ? そっか、わかった。シンだ! キタコレ。いろんな意味で神」
「はいはい。順番次ナオね。いい?」
「いいけど誰に……」
 残念ながら、あんなに一緒にいたアキやリエやサヤカが今どこにいるのか、生きているのかすらわたしは知らない。想い出は3年で完結し、「芳紀」と名付けて棚の奥へ。
「……ダイゴ」
「言っちゃったよ。素だよ。ド本気だよ」
「いや〜、ナオ顔真っ赤だし。そんな好きなの?」
「絶対好きだね。もう大大大ッ好きだね。ベタ惚れ中だよ。このリンゴっ子」
「俺もイチゴよりかリンゴのが好きだけど」
「ウソ!」
「ちょ、ダイゴ、待て! どっから聞いてたの!」
「イチゴの意味なんだけど、キスしたい? ダイゴと」
 慌ててダイゴ君を追いかける二人にかまわずサヤカは囁いたのだけれど、頷けたかどうかまでは覚えていない。今ではダイゴ君の顔すら定かではないが、わたしは「芳紀」と名付けたあの頃を忘れないだろう。ずっと、ずっと。

千文字世界 禁断の果実
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