10分前

 止めて、蹴る。
 その基本的な動作があまりに綺麗で、僕は君のプレイを「美しい」の定義にしたんだ。6月。初めて県選抜の合宿で見たあの日。サッカーの神様がプレイしたら、きっとこんなふうだって、思ってしまったんだ。
 あの日の刷り込みのせいで、日本でもセリエでもプレミアでも、ちっとも君を越えるフットボーラには出会えていない。なにより、未だに僕はガゼッタなんかに「トラップがヘタクソすぎる」なんて書かれてたりする。
 たしかに僕は、僕の中の君を、一度も越えられずにいる。
 スパイクの紐を締め直す。君を越える僕の右足からしっかりと。
 どこかで見ていてくれると良いな。今日こそは、今日だけは。君を越えるはずだから。爪先で触れるぐらいの僅かさでいい。君を越えて、白いゴールへと。

W杯開催記念書き下ろし

(ケータイ)トップ > 空虹桜超短編集 エディアカラ > 10分前
(パソコン)トップ > 空虹桜短編集 バージェス頁岩 > 10分前
空虹桜HP アノマロカリスBANNER
(C) Copyright SORANIJI Sakura,2010
e-mail bacteria@gennari.net