一夜の宿
ドアをノックするのは誰だ?とドアスコープを覗いたら星だったので、これを断れば足穂に怒られると考える。もちろん足穂と面識はなく、生まれた時にはすでに故人だった氏への、片想いな妄想にすぎない。
時間も時間だし、春先の今しがたは寒かろうと、ひとまず招き入れた。
「ありがとう」
答えた星に茶を勧めるが、眠れなくなると断られた。そもそも夜仕事の星が屋内にいる時点で、かなりルール違反なのに戯けたことを言うなと腹立たしくなるが、客人として迎えたのだから仕方ない。酒も勧めたが断られた。
今宵眠れれば、それで良いと言う。万年床を貸し与え、炬燵で寝ることにした。
「ありがとう」
言ったかどうか、すぐに寝息を立てだした星の逞しさに気取られるも、時間が時間なので、たしかに眠い。次に目覚めると、すでに曙。
『ありがとう』
炬燵の上に走り書きがあったので万年床を見ると、たしかに星形だけが残っている。一宿一飯の恩義も知らねか!思うも、馳走を断られたのだから、怒りすぎだと思い直す。
窓から空を見ると、白くて小さな星が、太陽に遅れまいと震えながら上っていく。
超短編 500文字の心臓
第146回競作「一夜の宿」参加作を加筆修正
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