2020冬

 缶ビールがいつまでも冷たい満月の夜。荒野のような街を歩く。
 指が悴んむので、始終缶を持ち替えなきゃならないのが不便。冷たさなんて感じなければ良いのに。歳のせいか、指紋はグリップしない。
 足音はいつまでも追い抜かないから孤独じゃない気になるけど、こちらは孤独を求めているから迷惑この上ない。
 緊急事態なのに世界は映画みたいな混迷を極めず、普通は日常にちゃんと折り合う。
「レジリエンス」なんて流行言葉が、浮かんだ途端コンビニの光に溶けて消える。
 レジを仕切るビニルシート。消毒用のアルコール。セルフレジ。
 でも、酒を買うには虚構の年齢確認が必要。
 入り口のゴミ箱に空き缶を捨てる。
 システムはそこにある。
 惑星軌道の微かなブレは重力の計算で割り出せる。
 見えない星がそこにある。
 よくできた社会は動摩擦程度じゃ止まらず、大雑把な世界に人間味はあるけど、どうしても君はそばにいない。
 ストロングの缶チューハイは、油断すると甘くてしんどい。

書き下ろし

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