後半23分過ぎ

「やっとだ」
 右足からスパイクの紐を締め直していると、声がして、隣にヤツの足が現れた。
「四年ぶりだな」
 GKのセービングにスタジアムが大きくどよめく。
「どうする?」
「楽しむ」
「言うと思った」
 軽く数度ジャンプして、フィット感を確認する。このコーナキックが終わればだろう。
「驚かせてやろうぜ」
 ヤツがストレッチの真似事を続けるのは、間が持たないからではなく、緊張しているからだろう。
 静寂が刹那の間支配して、相手FWのヘディングシュートはバーを掠める。
「――世界は驚きなんかしない」
 第四の審判に呼ばれ、センタラインへ。
「結果はいつも必然なんだから」
 ハイタッチをしてから右足でピッチを踏む。残り時間は22分弱――

FIFA World Cup Germany 2006 開催記念書き下ろし

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