たおやかな捻れ

 怖いか怖くないかで言えば、怖い。というか、怖くない方がどうかしてる。でも、煙草は止められん。iQOSにしたんだから、神様とやらがいるのなら、ちょっとぐらい酌量してくれや。
 そんなことを考えながら空を眺めていたが、いい加減寒いので事務所へ戻る。抜けるように青い空と北風。寒さも怖さも見せたら負けだと思うし、マスクは嫌いだ。息が詰まる。
 小さなビルの小さなエレベータ。駆け込んできた小太りは、しかし、明らかに俺より小さくて、きっと軽い。憂鬱
 上がりきった息。口で行われる呼吸。世界が俺を殺しに来てるという強迫観念。ソーシャルデイスタンスだか、デイスタンシーズだかな2mはとっくに侵略されて、息を止める。ランプは・・・あとワンフロア!
 ドアが開いた途端、転げるように廊下へ出る。なにも無かったようにドアが閉まる。事務所までの短い廊下。
 嫁も娘もいる。もしかしたら、団信降りて住宅ローンは返済できるかもしれんが、俺のいない家族の団欒は釈然としない。脂肪と糖で出来てるんだ。肉体ってヤツは。血圧や血糖の上振れぐらい誰にだってあるだろ。肝臓がフォアグラだって、肺が黒くたって、俺なら生き延びる。生き延びられる。ドアを開ける。
 あっ!息が詰まるって、弱み全開じゃねぇーか。

書き下ろし

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