愛玩動物

「課長。お先に失礼します」
 今年の春、久々に新人が配属された。
「お疲れ」
 いちいちわたしの机まで来て、帰りの挨拶をする「優秀な学生」だったろう青年。
「そうだ。お前、いい加減髪切れよ」
 なにより、可愛いから苛めたくなる。
「返事は?」
 支配の快楽。屈服の悦楽。想像しただけで背筋がゾクゾクする。
「……課長は」
 新人君の顔が……近くに……息が……耳に……
「僕が髪を切ったら喜んでくれますか?」
 思わず頷いてしまった。微かな汗の匂いが遠ざかっていく。
「ハイ!」
 悪魔が潜む作り笑顔に股間が反応する。
「わかったなら……早く帰れ」
 今すぐかぶりつきたいけれど、まだ早い。

超短編 500文字の心臓
第69回競作「愛玩動物」参加作

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