あいについて

 たまたまマグレで生き延びて、今日、18歳。惰性でも生きてさえいれば歳を取るとしみじみ思う夜。
 必要なことの大半は本から学んだ。小説、漫画、新書に論文。紙も電子も問わず、さすがに木簡は読まなかったけど、一通りは読んだ。この世には歴史ってヤツが堆積していて、無茶苦茶沢山の大人が、もしくは大人みたいなヤツらが、いろんなことを考えて、発見して、書き残していた。
 それが学問だと教えてくれた祖父はもういない。
 学んだから惰性でも生き延びられたと、結果論的に思うこともある。
 でも、だから、なに?
 そんなのは何億haもある広場で、遊んでるのが自分だけじゃないって事実しか指し示さない。微分はアキレスの亀を退治しないし、明日のデートに着る服も決められない
 惰性でも、生きることには些末な悩みがまとわりつく。呆れるほど世の中はくだらないことにまみれてて、それもすべて歴史の堆積だ。
 でも、だから、なに?
 頭で、心で、本能で、体で、股間で、わたしに愛されろよ。わたしがそう愛するから、惰性じゃなく、文字じゃなく、言葉じゃなく、愛されろよ。いろんな理屈はすっ飛ばして、愛するよ。愛せよ。

20周年!もうすぐオトナの超短編」タカスギシンタロ選 佳作

トップ > 空虹桜短編集 バージェス頁岩 > あいについて
空虹桜HP アノマロカリスBANNER
(C) Copyright SORANIJI Sakura,2017
e-mail bacteria@gennari.net