愛してたのは間違いないよ

「もうさ、男子ってガキだから、わざわざレモン味のリップとか買ってったよ」
 放課後の喫茶店。他愛もないクラスメイトの発言。
 たしかにあの頃のわたしは、愛されたくてずっと彼に尽くしてきた。つもりだった。彼には、「子どもをあやしてやってる」ぐらいだったとしても。
「あはは。ウケる。どんだけ甘やかせば気が済むの?」
 精一杯の背伸びは、結局、両足攣って終わった。それくらい、世間の目は冷たいってこと。不倫とか女子中学生とかには。
「だって、きっとネタにされるんだよ。永遠に。ファーストキスとかって」
 フォークを差したら、タルト生地がホロホロと崩れた。なんでレモンのタルトなんて選んでしまったのだろう? これじゃあまりに隠喩すぎる。
「されるねぇ。っていうか、もうしてるね」
「ヤっちゃったら、さらにだからね。覚悟しといた方がいいよ〜」
 メレンゲを多めなら誤魔化せるかと思ったけど、レモンクリームはやっぱり甘くて、やっぱり酸っぱくて、でも、よかった。しょっぱくはないや。

コトリの宮殿 2号
ショート!ショート!ショート!ケーキ・ストーリーズ 掲載作

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