あおぞらにんぎょ
ハリケーンが通り過ぎたから、雲ひとつない快晴。
「レイラ、海へ行こうよ」
開きっぱなしの窓から、ボクは声をかけた。のに、いつもなら射し込む陽を避けるみたいに、日陰のソファで本を読んでるレイラがいない。
レイラは大人なのに子どもみたいなんだ。お人形のような顔してるのに、一日中部屋で本を読んでる。島へ来たのに音楽を浴びず、しかめっ面を崩さない。
そんなレイラだって、今日の天気にほだされたかもしれない。だって、じーちゃんが言ってた。
この島は海へ帰る入り口なんだって。
太陽におはよう。パイナップルに水をあげよう。蜘蛛の巣は壊さないよう。バックビートに乗っかって、ボクは海へ行く。赤い道が草むらを掻き分けたら、
「レイラ!」
水平線の向こうまで、ボクの声が響いた実感がある。ホントだよ。
駆け足で波打ち際まで行って、もう一度叫ぶ。波が打ち寄せる。優しい風がボクの声を高く、遠くへと運んでいく。
世界はまぁるい。
「ボーデ!」
レイラの声がして、姿が現れて、快晴よりも澄んだレイラの瞳。
まるで海が故郷みたいなレイラに、ボクはじーちゃんの言葉を思い出す。
超短編 500文字の心臓
第101回競作「あおぞらにんぎょ」参加作
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