あらかじめ決められた恋人たちに
彼女が、妻が、死んだ。
医者から予告された余命に、二日ほど足らず死んだ。
初七日の翌日、Webで彼女の病への特効薬についての論文が発表されたと知った。
哀しいとも、辛いとも感じなかった。
親愛なる人々からの言葉は、行為自体はありがたいのだけれど、僕には無価値だった。
終わらせられない彼らが口にする「もしも」は、きっと魅力的な「もしも」だ。
けれど、もしも「もしも」に僕が魅力を見出すなら、僕はあまりに彼女へ失礼で、僕も彼女も絶望するに違いない。
ありったけの事実が、この胸の中にある。
だって、一緒に生きたんだ。
「運命」というにはチープな結末を前提に、僕らは日々を丁寧に慈しんで生きた。
彼女との三年があるから僕は生きていける。どこか別次元の、どんな世界や可能性も、この世界で彼女と生きた僕には空虚だ。
三年だけが存在する。本物なんだ。執着や妄念ではなく、もうすこし生きるため、この三年を何度も反芻する。
「
20周年!もうすぐオトナの超短編
」松本楽志選 投稿作
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