ありきたり tired future edit.

「10年経った(筆者注:正確には10年目)のに、まだ、嵩上げも終わってないんだからね」
 彼女はそう言ってから笑った。
 税金も衆目も、スポーツを騙る集金ビジネスに注がれる。
 嘲りに見えた笑いは、むしろ「諦め」とか「悟り」かもしれない。
「もうね、今はここが日常だから。いっそ、愛着だって湧いちゃったし」
 1円を笑うものは1円に泣く。同じように、お金のために切り捨てたものは、お金のために切り捨てられるだろう。その時、人はこう言うに違いない。
『義理人情は無くなった』
 この荒野は切り捨てられたのに、彼らは未だ認めない。
「求めても、与えられないんだよね。どっちにしろ、欲しいものは10年前に持ってかれちゃったしさ」
 『復興はまだ終わっていない』などというお題目は、誰でも唱えることができる。しかし、眼前に広がる現実はいくら念仏を唱えても、浄土には至らないと明示している。
 恐らくこの記事も、周年記念を飾る、お為ごかしだ。
「希望なんてさ、5mの嵩上げ程度で得られるんだけどねぇ」
 これが、生きてるフリしたこの国の、ごく普通な光景なように。

超短編 500文字の心臓
第130回競作「ありきたり」未投稿作

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