寝息は聞こえない

 いつからの傷か忘れてしまったけれど、彼女の左腕に絆創膏が貼りっぱなしになっているので、彼女を起こさぬよう剥がす。
 端から乾いて瘡蓋になっているのに、中心はまだじゅくじゅくと朱い。
 衝動にかられ、すこしずつすこしずつ彼女を起こさぬよう瘡蓋を剥がす。
 すると、じゅくじゅく朱い中心から白い蠕虫が顔を出した。
 もそもそと彼女の瘡蓋を這う蠕虫は、僕の爪先まで辿り着くと、鎌首を持ち上げた。
 僕は考える。
 この蠕虫が彼女の正体だと仮定した場合、はたして僕は彼女との結婚に踏み切れるだろうか?
 這った跡には朱い血。
 途中まで僕が剥がした瘡蓋を、蠕虫は食べ始めた。
 ぱりじょり ぱりじょり
 体のわりに大きな音。このままじゃ彼女が起きてしまう……
 結局、蠕虫も瘡蓋も彼女も僕が全部食べた。

コトリの宮殿 in 超短編マッチ箱
第-1回自由題部門投稿作

(ケータイ)トップ > 空虹桜超短編集 エディアカラ > 寝息は聞こえない
(パソコン)トップ > 空虹桜短編集 バージェス頁岩 > 寝息は聞こえない
空虹桜HP アノマロカリスBANNER
(C) Copyright SORANIJI Sakura,2007
e-mail bacteria@gennari.net