寝息は聞こえない
いつからの傷か忘れてしまったけれど、彼女の左腕に絆創膏が貼りっぱなしになっているので、彼女を起こさぬよう剥がす。
端から乾いて瘡蓋になっているのに、中心はまだじゅくじゅくと朱い。
衝動にかられ、すこしずつすこしずつ彼女を起こさぬよう瘡蓋を剥がす。
すると、じゅくじゅく朱い中心から白い蠕虫が顔を出した。
もそもそと彼女の瘡蓋を這う蠕虫は、僕の爪先まで辿り着くと、鎌首を持ち上げた。
僕は考える。
この蠕虫が彼女の正体だと仮定した場合、はたして僕は彼女との結婚に踏み切れるだろうか?
這った跡には朱い血。
途中まで僕が剥がした瘡蓋を、蠕虫は食べ始めた。
ぱりじょり ぱりじょり
体のわりに大きな音。このままじゃ彼女が起きてしまう……
結局、蠕虫も瘡蓋も彼女も僕が全部食べた。
コトリの宮殿 in 超短編マッチ箱
第-1回自由題部門投稿作
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