8月半ば

 2人の距離が離れてしまうってことだから、見たくはなかったけど、でも、いつかは見たかった先パイのスーツ姿。何ヶ月か前まではTシャツとかで学食にいたのに。てきとーな人だったのに。でも近くにいたのに。
 すっかり着慣れたというか板についたというか、あの先パイがスーツでいた。働く男で通りの向こうにいた。で、つい思わず声かけてしまった。ひゃー!
「先パイ、あっ、握手してもらっていいですか?」
 噛んじゃったけど、ホントはキスしたいけど、して欲しいけど、ここじゃ我慢するんだ。外だし。誰見てるかわかんないし。先パイ働く男だし。スーツだし。握手だけ。我慢するんだ。
 我慢するんだ。

超短編 500文字の心臓
第31回 自由題参加作

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