頭の中で彼女が唄う。どこか気怠そうに。しかし、芯の通ったリッチな声は、耳から外に漏れ出しているんじゃないかと不安になる。穴という穴から発散される振動は、きっとその内どこかの誰かと共振して、まさしく音として再生される予感がある。
そういう音楽を頭の中で彼女が唄う。
幸せなんて、あの日、黒い波が沖まで持ち去ってしまったけど、頭の中の彼女が発する波は鮮やかな憂鬱のブルー。飲み込まれたらきっと、どこにもたどり着かない。
誰かに付き従い、導かれることを拒絶したわたしの頭の中で、彼女が唄う。飲み込まれはしない。煽動されもしない。これはわたし頭の中だから。どこまでも、響け。広がれ。命令形で唄う。
超短編 500文字の心臓
第123回競作「青い鳥」未投稿作