美しく歪んだルール
久々に家を出て、電車に乗る。
乗客はどいつもこいつマスクで、しみったれている。そんな布っきれ、疫学的性能は不明だ。
三人掛けの優先席は、真ん中が空いているから、ありがたく真ん中に座らせてもらう。隣のリーマンが舌打ちする。チラッと見てからわざと咳き込んだら、見事に驚いて
「独りで死ねよ。ジジイ」
捨て台詞残して隣の車両へ逃げる。
リーマンだけじゃなく、反対隣のオバサンも他の乗客もこちらをじと目で睨む。なんだ? 俺はバイキンマンか? 悪魔か?
疫病神か?
一瞬問い詰めてやろうかと思ったが、あまりに無為だからやめる。有り余る邪気が満ちた車両でホントに具合が悪くなる。腐った魚の臭いが開いた窓から吹き込む。そんなんだから流行病に取り込まれるんだ。何時からこの国はそんな臭いで溢れちまったんだ?
糞みたいな台詞が吐き気と一緒にこみ上がる。カーブで車両が悲鳴を上げる。悪いのは、病か? 老人か? 国家か? 常識か? 細菌とウィルスの違いもわかんねぇクセに、いい気なもんだ!
軽くテンションあがって、咳き込むのはご愛敬。
吐いてはいない。
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