眠れない君のために
「やっぱ寝れないや」
高揚感と疲れが残る耳元で、君の可愛い声がそう囁く度、僕は嬉しくて嬉しくて、たぶんだから、君が心地よく眠れるように、面白すぎず、つまらなすぎず、柔らかい毛布みたいな物語を書こうと思い立った。
君が主人公で、君は愛されていて、君は愛していて、誰もが君の幸せを願っていて、君は世界中が幸せであるように。と、まるで無邪気な子供のように願う。
そんな物語を書いてみたら、つまらなかった。とてもつまらなかった。暴力的に眠れるほど、つまらなかった。
どうしてだろ? もちろん、僕に文才が無いからだけど、どうして君への愛おしさが物語に書き込めないのだろう? こんなに溢れてる感情を、適切な言葉で並べたにもかかわらず、表現しきれないのだろう? 想いの厚さとは裏腹な、薄っぺらい物語しか書きあげらないのだろう?
何度も何度も僕は書き直す。君を想って、君を愛して、君を考えて、君が心地よく眠れるように、僕は今日も眠らない。
「
20周年!もうすぐオトナの超短編
」氷砂糖選 投稿作
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