冷えた椅子

 手袋をしないから、ドアノブが一番冷たい。
 入ったらすぐ玄関を閉めてカギをかける。外の冷気が入らないよう、コートのすそを挟まないよう。
 わずかに家の中の方が暖かいのは、外壁と内壁の間にたくさん詰め込まれた断熱材のおかげ。
 電気を点けて、靴を脱ぐ。フローリングがとても冷たい。
 ストーブまで歩いていってスウィッチを入れる。
 靴下をはいているのに、フローリングには白く足跡が残る。
 暖機運転がはじまり、少しずつ少しずつ、波のように伝わる熱が部屋を暖める。
 対角線上の隅には、木製の椅子。だから、熱はなかなかそこまで届かない。
 本運転に切り替わってからコートを脱ぐ。
 まだ椅子には座らない。
 最後の最後、空気がカラカラに乾くぐらい暖まってから、椅子に座るのだ。
 ほのかに冷えた椅子。
 冬だけの幸せ。

超短編 500文字の心臓
第33回競作「冷えた椅子」参加作を修正

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