冷えた椅子 零下25度MIX

 手袋をはかないから、ドアノブが一番冷たい。
 入ったらすぐ玄関を閉めてカギをかける。わずかな隙間からでも雪は忍び込むから。
 電気を点けて、靴を脱ぐ。つま先立ちでフローリングの上を歩く。瞬間、靴下がフローリングに貼りつく。
 毎日水を落とすのが面倒なので、ストーブは点けっぱなし。
 それでも温度設定を一番低くして家を出るから、息は白く、部屋の隅は寒い。
 木製の椅子はそこにある。
 温度設定を上げてからコートを脱ぐ。まだ椅子には座らない。
 最後の最後、空気がカラカラに乾くぐらい暖まってから、椅子に座るのだ。
 曖昧なままに冷えた椅子。
 冬だけの幸せ。

超短編 500文字の心臓
第33回競作「冷えた椅子」参加作 零下25度MIX

(ケータイ)トップ > 空虹桜超短編集 エディアカラ > 冷えた椅子 零下25度MIX
(パソコン)トップ > 空虹桜短編集 バージェス頁岩 > 冷えた椅子 零下25度MIX
空虹桜HP アノマロカリスBANNER
(C) Copyright SORANIJI Sakura,2004
e-mail bacteria@gennari.net