冷気

 昨夜は星空だったから、うっすら霜が降りていて、朝がいっそう凛とする。
「しゃっこくて、きもちいい」
 そう言ってつないだ貴方の右手は、かじかんでたのが嘘みたいにほんわかした。
「あっためてよ」
 陽は柔らかいままなのに、言葉は空気に磨かれる。それで、なんだか照れてしまった。
「うん」
 あったかくなりはじめた左手がぎゅっと握られて、気を取られた隙に貴方は駆けだした。
「ちょっと」
 口から順番に、喉にも肺にも空気が貼り付いて、内と外がはっきりする。雪虫までは余計だけどしかたない。
 乾いた唇。
 不意に立ち止まると貴方はキスをした。
「あったまった?」
 しゃっこくて、あったかかった。
 今年は素直に季節が過ぎるから、今日で秋物のスカートは最後。

超短編 500文字の心臓
第63回競作「冷気」参加作

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