だめな人
パートが終わってアパートに帰ると、玄関のカギが開いていた。離婚して1年以上経つのに、ノブを回してドアを開けるまでの間、恐ろしい妄想が頭を駆け回る。
「ただいま。カオリ? 帰ってるの?」
台所と居間を隔てるドアは開いていて、窓から差し込んだ夕陽が娘の赤い靴に当たっている。アニメの時間なのにどうやらTVはついていない。
「どうしたの? カオリ? 帰ってるの?」
フローリングなのに自分の足音が五月蠅い。心拍音も。もともと盗まれるような物は無いし、実際荒らされた形跡もない。
窓の方にばかり気を取られて、ドアの、わたしのすぐ側で娘が体育座りしていることに、わたしは気付けなかった。
「なに……してるの?」
「……ひとりぼっちの練習」
全身の力が抜け、崩れ落ちる体を無理矢理、娘の隣に体育座りさせる。
顔は別れた夫に似てるけど、この娘はやっぱりわたしの子どもだ。
「ママも……ふたりぼっちがいいなぁ」
呟いたら、娘が小さな手でわたしの頭を撫でた。
もうすぐ夜になる。
超短編 500文字の心臓
第48回競作「だめな人」参加作
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