でたらめなロマンチスト

「先生、なんでわたしに敬語なんスか?」
 こってり絞られた放課後の生徒指導室で、わたしのピント外れな声は意外と木霊して、これ、トラップだったら鬼だね。
「若い頃は呼び捨てでしたよ」
 ほんのり驚き顔のおじいちゃん先生は、お孫さんが2歳になったハズで、奥さんは面倒見に毎日娘さんちへ通勤している。教科書に載せたいよな人生。
「教師が生徒に嘗められたら終わりだと。でも、それは信仰です」
 頷くとラズベリーな髪が視界に入って、高三の夏休みに、この頭を咎めない母親はどうかしてるけど、一番悪ノリしてたのが母親本人だから仕方ない。
「修学旅行で東大寺の大仏様を拝観しましたが、信仰心とは無関係に『凄いな』と思いませんでしたか?」
 また頷くと、後略。
「いつかの引率で大仏様と目があって、ふと、その凄さは敬意だと気づきました。ならば、敬意を具現化しようと」
「敬語で話はじめたと」
「ええ。『求めよ、さらば与えられん』」
「逆だし、キリスト教だし」
 と、脊髄反射しちゃう自分の軽さにげんなりする。
「正解」
 アルカイックスマイルを越えて、超えて、どうしよう。老け専目覚めたかも。

ケーキの超短編「フランボワーズ」優秀賞

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