私がダイヤモンドだ

「ご隠居!ご隠居!アレ?いねぇや。いい加減クタばっちまったか…」
「勝手に人を殺すんじゃない」
「ひぇ〜!出たぁぁぁ〜〜〜」
「人を殺した上に幽霊扱いとは。ほれ!しっかり両の脚で立ってるだろ」
「ホントだ。それにしてもご隠居。ずいぶん薄汚い股引で」
「余計なこと言うんじゃない。で、なにしに来たんだい?今日は」
「そうだ忘れてた。ご隠居、今日はなんの日で?」
「今日は中秋の名月で。って、どうせ八つぁんだ。おカミさんになにか言われたね?」
「ご隠居〜。ウチのカカァ『今日がなんの日か忘れたってのかい!!』とか言って人の尻ひっぱたくんですぜ」
「八つぁんいいかい。女の人がそんなこと言うのは誕生日か結婚記念日と相場が決まってるんだ」
「てことはカカァのヤツ、人の尻引っぱたいておねだりですかい?そりゃあんまりだ」
「物は言い様だね」
「そもそもおいらにねだろうって魂胆が気に食わねぇ」
「八つぁんに金銀財宝、ダイヤモンドを買う甲斐性が無いのは長屋中みんなが知ってるんだ。いいかい。女の人はちょっとした希少価値に滅法弱いんだ」
「それなら手ぶらで十分だ。『私がダイヤモンドだ』ってね」
 おあとがよろしいようで。

超短編 500文字の心臓
第23回競作「私がダイヤモンドだ」参加作

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