湖畔の漂着物

 恋は、ただひたすらに落ちるものだ。
 全知全能のゼウスが恋に落ちたテュロスの王女、エウローペーを由来とする衛星は、入植から百年以上経ってもまだ数十メートルの氷が支配する。
 ひたすらテラフォーミングを続けても、主星からの潮汐力は氷層をうねらせ、新たなリネアやマキュラを形成する。
 木星の第2衛星で人類はシャーベット状の海は見つけても、ブラックスモーカーの欠片すら見つけられなかった。
 今のエウロパは、かつてのボストーク湖を思わせる。融けきる前の太陽系第3惑星の極地。
 ゼウスと同一視されるユーピテルへ落下し続けるこの星で、ひたすらに落ちた恋は寄せ、恋は引き、恋に切り取られた過冷却水が、氷の岸辺へ打ち上がる。
 氷の中に、わたしは見つけた。シーグラスのような恋の痕跡。

超短編 500文字の心臓
第134回競作「湖畔の漂着物」投稿作

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