象を捨てる
1万年ほど、シベリアの永久凍土の下で眠っていた彼女は知らない。
その昔、彼女を追い回した生物のなれの果てが、永久凍土の下から彼女を掘り起こし、彼女の細胞から彼女を複製したことを。
彼女の複製は、ほぼ彼女そのものだが、彼女とは少しだけ違ったことを。
牙の長さが左右で異なっていたり、右側の耳だけが極端に小さかったり、鼻の代わりに尾が長くなったりしたことを。
彼女の複製たちは、誰もが1週間ともたずに死んでしまい、シベリアの永久凍土の下に次々と遺棄されたことを。
今は彼女もシベリアの永久凍土の下に戻され、眠っている。
だから彼女は知らない。彼女の周りで眠る少女たちが皆、彼女の複製であることを。
超短編 500文字の心臓
第42回競作「象を捨てる」参加作
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