期限切れの言葉

 君と僕とはいつか完全な恋に堕ちると思ってた。夜が深く長い時を越え、「心変わりの相手は僕に決めなよ」と、誰かにとって特別だった君を奪い去るんだと思ってた。君の心の扉を叩くのはいつも僕さって考えてた。それだけがただ、ふてくされてばかりで「ラブリー」なんて聴いて胸を痛めてた10代を、悩める時にも未来の世界へ連れて行った。
 けどそんな時は過ぎて、大人になりずいぶん経つ。
 僕らが過ごした時間や呼びかわしあった名前など遠くへ飛び去り、ふぞろいな心はありふれた奇跡にも気づかず、誰もみな手を振ってはしばし別れた。

 風薫る春の夜。君と会ってた時間、僕は思い出してた。
 空へ高くすこし欠けた月。遠くまで旅する君に溢れる幸せを祈るよ。
 東京タワーから続いてく道。いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて生きている。
 僕らの住むこの世界では旅に出る義務があり、突然「ほんのちょっと会いたくなった」なんて言い訳用意して彼女の住む部屋へと急ぐ。
 のに、ヘッドフォンから流れるロックステディは、分別もついて歳を取った僕の歩調を、ゆるやかにベースラインへと導く。

Almost words from "LIFE" by OZAWA Kenji
超短編 500文字の心臓
第85回競作「期限切れの言葉」投稿作

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