蝦夷しぐさ
「江戸っ子」なんてぇのは、江戸城を有り難がってたお武家様の言葉で、あっしら町人にゃ関係ないんですよ。
むしろ「粋」かどうか。心の持ちようだ。商人の奴らは仕草がどうこう言いやがりますがね、粋かどうかは上っ面じゃねぇ。江戸商人のリーダーによる行動哲学だ、商人道だ? けっ。笑わせやがる。そんなんだから、ご維新で皆殺しにされちまうんだ。だいたいね、お公家さんの末裔が商人と仲良く江戸講なんぞ、できるわけがない。
だいたいね、教えられて「さいそうですか」で身に付いたモンが粋ですかい? 違うね。断じて違う。性根心根にまっつぐ一本通そうとしたら、教育みたいな杓子定規じゃ届かねぇ。道徳だなんだと頭でっかちなこと言ってるから、大人も子どもも上っ面で知った口をききやがる。
そこいくと、やっぱり蝦夷っ子の「蝦夷しぐさ」はひと味違う。たとえば「首かしげ」だ。頭に積もった雪を単にさらったら誰にかかるかわからねぇから、他人様から遠くに首をかしげてさらいましょうっていう、蝦夷の知恵ってんだ。他にも「股引き」や「時知らず」、「鹿にあやまり」なんてんだから、江戸の商人どもよりよっぽど粋で風流じゃねぇですか。
「モノの由来」――講談師見てきた様な嘘をつき――
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