白白白 -Winter Night Edition-

 夜。
 円をわずかに欠いた月が浮かぶ。
 冬の夜。
 高いアルベドに照らされて、暗いのに明るい。星は見えない。
 ミー散乱。
 月が照らす田んぼの真ん中で、一人なのにひとりではない。
 闇の不在と雪の存在。
 日本は、アジアは、かつて四神に対応した四色しかなかったという。
 麒麟の色で呼ぶのは異国の他者。他者がいるから嫉むし僻む。社会は存在し、自我を確立する。
 細枝に積もるのは粉雪なのに重く、煌めく。山肌を埋める一本一節が透けて見えそうな月夜。
 氷の中を歩くような静謐。音は雪に眠る。
 時折突く、自動車のスリップ音が他者を思い起こさせる。鹿が啼く。狐が跳ねる。熊は深く眠っている。
 雪原に朱雀はいられないが、地名にその色がある。
 闇を形容する語が禁忌となるなら、わたし、網膜が捕らえ脳が合成する色を、新たな言で語らねばならない。
 けれど、ただとにかく明るすぎて怖い。
 夜。

超短編 500文字の心臓
第180回競作「白白白」参加作

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