白白白 -Worm-

 その巨大鉤虫が発する音は、たしかに「白白白」と表記するのを適切に感じた。
 白白白
 白白白
 白いところはなにひとつない。焦げ茶色の表皮は硬く、関節が稼働する度に擦れる音がそう聞こえる。寄生した他者の身体を侵食し、宿主は内部に聞くのだ。
 白白白
 白白白
 耳に障る音を、そのまま表音文字にするなら「はくはくはく」
 どんな虫とも違う音。小さいのに大きい。擬音を漢字にする歪さこそが、その巨大鉤虫を適切に表現している。
 白白白
 白白白
 通常、卵で体内に取り込まれ、小腸で孵化をし、内腑を食らいつつ脳へと到る。「白白白」と徐々に音が大きくなるのは恐怖に違いない。頭蓋骨を食い破ると、頭頂から卵を吐き出し死ぬ。卵も決して白くない。脂と同じ黄色だ。
 白白白
 白白白
 食いついたら離さない大きな鉤を、ピンセットで突く。金属すら食らわんばかりに飛びつく。宿主は身体を喰らい蠢くのを感じて生きねばならない。死ぬまで。
 白白白
 白白白。

超短編 500文字の心臓
第180回競作「白白白」参加作

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