フッ素

 目の前で彼女が殺されたのはトラウマなのだけど、それを易々と口にしたら夏休みのお涙頂戴映画か、ハラスメント帯びたバッシングを受けるので、じっと口を閉じてきた。
 人々は泣き叫ぶ姿を求めるのだろうけど、そう簡単に判断や感情は連動しない。
 感情が動かないのはドライな人間だと思っていたのだけど違う。冷静なフリでもしなければやりきれないぐらいエモーショナルの最中なのだ。あるいは、CPUが100%で張り付いて処理落ちしているだけ。
 ある意味で、腹を立てたり喜んだりしてたあの頃の軽さというか、摩擦の小ささが羨ましく思う。自分のことなのに。

『生きてるとか死んでるに左右されない、丈夫な愛が欲しいね』
「そうだね」

 自分の声が聞こえた。
 泣いてはいないし、自分の声で起きたわけでもなく、朝が起こした。会話は淡いに消えた。そもそも夢なんて、ただの夢だ。
 顔を洗いながら淡いをそのままに、今日の仕事を思い出す。日常はCPUコストの外で処理される。
 いつか・・・「最中」でなくなるのだろうけど、その代償・・・は?

元素12ヶ月を改訂

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