気体状の学校 -fire,fire,fire-

 あなたの吐いた空気を吸っていると、たしかに学んだ。あの頃身に付けたどんな知識より、その事実が重要だった。
 よく燃えるものと、燃やしてはいけないものが一緒に燃えている。刺激臭があたりに立ち込め、炎と黒い煙と音も。
 たしかに、あなたはこの教室で呼吸していたから、誰かの吐いた空気と一緒になって、薄められて、でも教室の隅やバレーボールの中とか、落書きの欠片に、分子の一つくらい残っている。知っている。
 誰かに壊されるぐらいなら、この手で壊したかった。炎が起こす上昇気流に乗って、澱んだ記憶を、空気を、すべてが拡散すると、かつて学んだから。
 それでも、この体のどこかに、あなたの吐いた酸素か窒素かの原子が、ひとつ、ある。クオークでもかまわないから、ひとつぐらい独占させろ。
 あなたの吐いた最後の空気が、今、燃える。

超短編 500文字の心臓
第147回競作「気体状の学校」未投稿作

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