緑の傘

 今日はわたしのためにお集まりいただき、ありがとうございます。
 17年間全力で戦ってきましたが、本日をもちまして、現役を引退することを決意いたしました。
 プロ生活2年目で初めて立った神宮球場のバッタボックス。痺れました。スタンド全体がわたしのために東京音頭を唄い、わたしのために傘を振り・・・もう一度ここに立ちたい。何度でもここに立ちたい。この景色を独り占めしたい。その一念が、今日まで現役を続けさせたと思います。
 できることなら、死ぬまでずっと神宮球場のバッタボックスに立ちたいのですが、それは叶いません。想いだけではプロであり続けることはできませんでした。
 ファンの皆さんには心から感謝をしています。この想い出があるから、これからの人生も生きていけます。願わくば、今度はわたしも一緒にスタンドで傘を振らせてください。
 今日は本当にありがとうございました。

超短編 500文字の心臓
第59回競作「緑の傘」参加作

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