外れた町

「二十年ぐらい前までかなぁ。商店会に元気があったのは」
 そう語るのは駅前商店会の猫川宏さん(人間でいうと百八歳)
「あの頃は、夕食の買い物時なんて、それこそ鼠一匹走る隙間が無いぐらい賑わってたもんですよ」
 転機はやはり、十五年前に市東部でオープンした大規模ショッピングセンタだという。この十年で郊外と駅前の地価は逆転し、名実ともにショッピングセンタ周辺が市街地となった。商店会も手をこまねいていたわけではない。独自のポイントカードやイベントの開催など、打てる手は打ってきた。しかし、時代の流れには逆らえないと猫川さんは睨んでいる。
「六十過ぎたら、チマチマ商店まわって買い物するより、ブーンと行って、パパッと買って帰ってくる方が楽だしね」
 不景気の波はいち早く地方へやってきたが、景気回復の波はいつまで待っても打ち寄せない。
「まぁ、ゆっくり朽ちていくのを見守りますよ」
 商店会でも数少ない「元気な店」である鮮魚店からくすねた大きな煮干しを舐めながら、猫川さんはそう言う。
 長年、商店会の看板として活躍した猫川さんは、アーケードで日向ぼっこしながら、終わりを静かに見届けようとしている。

超短編 500文字の心臓
第99回競作「外れた町」参加作を一部修正

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