ヘリウム

 できるだけ軽い人間になりたかった。重力下では質量を抱えれば抱えるほど、動くのに大きなエネルギが必要になるけれど、軽ければ同じエネルギーで高く、もしくは遠くへ行くことが出来る。
 断然軽い方が有利なのだ。
 だから、軽量化を重ねた。必要最低限の筋肉。中空軽量で丈夫な骨。生命を維持するだけの脳。
 浮くようになったのは台風の夜から。飛ばされてるのかもしれないけど、あの日は浮かんだ。そして、強風を捕まえればどこまでも行ける気がした。どれだけ軽くても翼が無いから飛んではいない。
 以降は、弱い風で浮く方法を考えるようになった。弱い風。ちょっとだけ弱い風。もうちょっとだけ弱い風。もうちょっと。もうちょっと!

 そうしてわたしは、吹き上げる風に乗ってゆっくりと成層圏を離脱する。

元素12ヶ月を改訂

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